32年の時を経て
子どもの頃から本が好きだったのですか?とよく聞かれます。
僕は子どもの頃、本が読めませんでした。じっと座れなかったし、数ページ読むだけで頭の中がパンクしたのです。
高校1年生のとき、モータースポーツにはまってレーサーが書いた本を読むようになりました。読書というより、あくまでもバイクです。
当時、鈴鹿8時間耐久レースに監督として参戦していた島田紳助さんが「風よ、鈴鹿へ」という本を出されました。
僕は初めて本を読ん泣きました。本を読んで涙を流している自分に驚いたことを覚えています。
それからはバイク雑誌を買いにいくときに、目についた小説を買うようになりました。
流行りだった赤川次郎の小説は読めなかった。西村京太郎の小説は鉄道が出てくるので興味が湧いた。
思いつきで買って、おもしろい本もあったし、最後まで読めない本もあった。それくらいの読書でした。
23歳のとき、勤めていた会社を辞めることにした。辞表の書き方がわからず本屋に行ってみた。
ビジネス文書の本は分厚かったが、4ページも読めば辞表の書き方がわかった。買うほどではない。
しかしなんとなく罪悪感があり新刊コーナーに立ち寄った。
それが中谷彰宏さんの本との出会いになった。

「タヒチで君のことを考えた」
中谷さんのことも、タヒチのことも知らない。いわゆるジャケ買いだった。
エメラルドブルーの海、水上バンガロー、カヌーで運ばれる朝食、パレオ、カーニバル…、ロマンチックな世界に連れてってくれた。
タヒチに行ってみたいと思った。もう一つ憧れを抱いた。かっこいい言葉を発せられる男になりたいと。
55歳になった今、どちらも叶えていない。けど、この本が好きなのは変わらず、何冊も贈ってきた。
今は中古本しか手に入らず、手元に3冊あることもあるし、1冊もないこともある。
先日、お客様と中谷彰宏さんの本の話で盛り上がったときは1冊もないときだった。
おすすめした本が手元にない。そんなことは本屋では日常のことである。
しかしそのお客様が数日後また現れた。大好きな「タヒチで君のことを考えた」を持って。
そのお客様も、中谷彰宏さんも、なんて粋なんだろう。

32年前のオレ、よくぞあの時、この本を選んでくれたね。そしてよく長年大事にしてくれた。
一冊の本が、想像つかない世界へと連れて行ってくれる。
本もおもしろい。でも本を閉じたあとの物語はもっとおもしろい。
物語はおわらない。
こんぶ店長
