彦阪泥舟ブックレビュー『いただきます。』喜多川泰/著【運を読む者は、本もこう読む】


当店で運勢鑑定会を開催している彦阪泥舟さんによる、ブックレビューをお届けします。
運勢鑑定師としての視点から、店主おすすめの本を解説してくださっています。
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『いただきます。~人生が変わる「守衛室の師匠」の教え』喜多川 泰/著
若き翔馬と、人生の達人との出会いから学ぶこと
喜多川泰氏の『いただきます。~人生が変わる「守衛室の師匠」の教え』は、一見すれば大学の守衛室を舞台にした、アルバイト青年と年配警備員たちの交流記です。
けれど、その奥には「人生の意味」「働くことの価値」「人と人とのつながり」といった普遍的なテーマが脈打っています。
主人公の翔馬は、高校を卒業したばかりの十九歳。
「楽に稼いで遊びたい」という安易な気持ちで大学の守衛室に警備員のアルバイトとして入ります。
学ぶ意欲をもって通う大学生に囲まれ、自分はただ金のために時間を切り売りしているだけ…。
そんな劣等感と不満を抱えながら、「遊ぶ金がたまったら辞めてやる」と心の奥でつぶやく青年でした。
ところが、その守衛室には翔馬の人生を大きく変えていく三人の“師匠”が待っていました。
松原さん、薮島さん、天野さん。
いずれも年齢は翔馬の四倍以上。
戦後の混乱期を生き抜いてきた彼には、いぶし銀の輝きを持つキャリアがあり、彼らの言葉には、若者が想像もしない深みがありました。
「だって、誰にでもできる仕事が一番、誰がやるかで差が出るからさ。」
この言葉に翔馬は衝撃を受けます。
自分にしかできない仕事を求めて焦るのではなく、誰もができる仕事こそ“自分がどう向き合うか”で差が出る。
その気づきは、彼の働き方や生き方を根底から変えていきます。
大学構内での守衛室での勤務は、一見すると単調で地味な仕事です。
けれど松原さんたちは、その中に人の役に立つ喜びを見出し、後輩に声をかけ、未来を担う学生たちを温かく見守ります。
翔馬は彼らの背中を通して「仕事とは未来の誰かの笑顔のために行動すること」だと悟っていきます。
そして、自分自身もまた誰かに支えられて生きているのだという “いただきもの” の感覚に気づきます。
この物語の構成は小説仕立ての自己啓発作品ですが、説教臭さはなく、自然な対話や日常の場面から読者もまた大切な気づきを受け取れるように仕組まれています。
そのため、特に現代の若者や、進路に迷う人、自分の存在意義を見失いがちな人に響くでしょう。
八十年の人生を歩んできた私自身、運勢鑑定師として多くの人の人生を見つめてきましたが、結局のところ「人は誰かの役に立ちたい」と願う存在だと感じます。
人は孤立して生きられません。
鑑定セッションをしているときでも、必ず「人とのご縁」「他者への奉仕」が運をひらく鍵となって現れます。
翔馬が受け取った「未来の誰かの笑顔のために」というメッセージは、まさに鑑定で私が伝えてきた核心と重なります。
占いの世界では、人にはそれぞれ「命(めい)」と「運(うん)」があると説きます。
「命」は生まれ持った資質や宿命、「運」は環境や行動によって変化する流れです。
命は変えられませんが、運は選び方次第で無限に広がります。
翔馬は守衛室での出会いを通じて、自分の「命」を悲観するのではなく、「運」を切りひらく道を選び始めました。
誰にでもできる仕事の中で、自分の心がけひとつで未来が変わる。
これは、鑑定の場で伝えてきた「運は日々の積み重ねによって貯金できる」という真理と響き合います。
この本を読みながら、私自身の人生の軌跡を思い起こしました。
決して順風満帆ではなく、苦しみも挫折も数多くありました。
しかし振り返ると、その都度支えてくれた人たちの言葉と姿が、私を次の一歩へと導いてくれていたのです。
翔馬と高齢の守衛たちの交流は、まるで自分自身の追体験のようで、ページをめくるたびに涙がにじみました。
現代の若者たちは、不透明な時代に生きています。
AIが仕事を奪う、社会が急激に変化する、未来が見えにくい。
そんな不安を抱え、「どうせ自分なんて」と投げやりになる人も少なくありません。
ですが、この物語が教えてくれるのは、環境や時代のせいにするのではなく、「誰にでもできる仕事を、自分らしくどう全うするか」が人生を変える力になるということです。
もし、進路や生き方に迷う若者がいるなら、この本をぜひ手に取ってほしい。
人生の師匠は、意外な場所に潜んでいます。
守衛室の片隅で交わされる言葉が、未来を照らす灯火になるかもしれません。
そしてその出会いは、決して偶然ではなく、あなたの「運」が引き寄せた必然なのです。
翔馬のように、一歩立ち止まり、人生の先輩の声に耳を傾けてみてください。
未来のあなたを待っているのは、きっと“誰かの笑顔”と、それを支えた自分自身の誇らしい姿です。
― 彦阪泥舟
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