『 まず、人を喜ばせてみよう!』(前編)

この人と出会ってなかったら、本屋はきっと続いてなかっただろう。本屋と僕の人生に大きな影響を与えてくれた人。ライバルではないにしても、同業の僕に、時には優しく時には厳しく応援してくれた。読書のすすめの清水店長が6月に旅立たれた。

お世話になった清水店長に恩返しをしたいと思ったことはなかった。

それよりやらなければならないことがあった。読書を普及すること、人を喜ばせること、ちょっと損をすること、本屋が拠り所になること、

清水店長はよくこう言った「こんぶちゃん、もっと俺に乗っかってこいよ。俺たちが書店業界を変えるんだよ」先輩でも後輩でもなく、師匠と弟子の関係でもなく、同志として見てくれた。

私は前に進むことができた。ちょっと前まで、どうすれば本が売れるか?ばかり考えていた僕に志を持たせてくれたのは清水店長でした。そのおかげで本屋をつづけられました。

訃報を聞いてからずっと、耳の奥で清水店長の声がこだましています。亡くなっても言葉は残るんだ。志というものはこうして受け継がれるのだと知りました。頼まれてないけど、受け継がなければと。だから語らなければと…

前編後編にわけて、清水店長のことを書かせていただきます。

時は2006年に遡ります。

当時、取次(問屋)主催で書店向けに研修会が行われていた。大手書店の代表や、大手出版社の幹部が講師でどうすれば本が売れるか、売れる店をつくれるかというお話をされました。開催するからには人を集めないとというわけで私のような小さなお店にも声がかかりました。何かいいこと学べるかもしれないという期待はなく、つき合いをしておけばいいことがあるかもしれないという下心で参加していました。

しかし講師が誰であろうと、大型店や複数店舗を持つチェーン店向けのお話ばかりで、私のような30坪ほどのお店にはさっぱり通用しないものばかりでした。店をパートさんに任せて抜けたら費用が発生するんです。交通費も時間も使います。つき合いと言って無駄なことはやめよう思いました。そんな時、講師が始まってすぐ大きな声でこうおっしゃられました。

「書店が繁盛する条件3つお話します。

 一つ、駅前であること。

 二つ、大きいこと。

 三つ、接客マニュアルが徹底されていること」

この言葉を聞いて、私はもうこれで最後にしようと決心しました。

しかし半年後、また研修の案内がFAXで届きました。知らんぷりしていると主催者から電話があり動員をお願いされました。「いつも大型店や資本があるお店向けのお話で自店にはあわない」と正直に言って断りました。

ところが、担当は「今回は違うのです。大型店でもないし立地いいわけでもない、なのに繁盛しているお店、全国から人が集まる書店の店主さんなんです。東京江戸川区、読書のすすめの清水克衛さんて方が来られます。フレンズさんに合っていると思ので来てください。」

読書のすすめ?清水さん?

聞いたこともないけど、自店と同じ規模で全国からお客様がくるってどんなお店だろう?と興味をもち、これを最後にしようと誓って研修に参加しました。

それまでの講師は皆、「どうやって本を売るか、いかにたくさん売れるか」を話されました。しかし、清水店長の口からそんな話は一切出てきません。「どうやってお客様を喜ばせるか?」その智慧をお話されました。

商人だと思いました。私がやりたかったのはこれだと思いました。

2006年のお話です、その頃もう書店は閉店ラッシュを迎えていました。

なるべく多く話題の本を仕入れる、人気の新刊を確保する、流行を追いかける、もうそんなことに力を使ってる場合ではないとは私は分かっていました。では、自店の個性は何なのか?それがわからなかった。なので、商品ラインナップで差別化を図ろうとしていました。

清水店長のお話を聞いて、私もお客様を喜ばせる人になりたい。そんなお店にしたいと思いました。それからの私はラインナップや陳列にこだわるのをやめて、お客様が楽しめるお店を模索しました。例えば、ポップに書く言葉が変わりました。それまでは「ランキング1位」「テレビで紹介されました」「話題の本」のようなものばかりでしたが、私の感想や、お客様の感想を書くようになりました。

すぐに反応がありました。ポップの前で立ち止まるひと、おすすめの本の話をするひと、本を選んでほしいとリクエストするひと、大きな変化です。

活字離れ、閉店ラッシュ、ネットショップ普及、、悪いニュースばかり流れる中、ポップをきっかけにお客様と話に花が咲く、唯一希望が持てる現象でした。

そういえば、読書のすすめの清水さんのお店の店内はどうなっているのだろう?と急に気になって、2007年6月6日に意を決して江戸川区篠崎にあるお店に行くことにしました。

今日はここまでです。続きは後半に書きます。

お読みいただきありがとうございます。

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