「まず、人を喜ばせてみよう!」(後編)

2007年6月6日、清水克衛さんのお店「読書のすすめ」を一度見てみたくなり、東京都江戸川区篠崎に向かいました。全国から人が集まる本屋さん、お客様同士が仲良くなって店が村みたいになっているらしい、本を売るのではなくお客様を喜ばせている、想像できるようなできないような。どんな本が並んでいるのだろう?棚のレイアウトは?学ばせてもらうつもり満々でした。

ところが、いざ店に入ってみると、酒の一升瓶が並んでる、足袋や洗剤が売られている。大きなぬいぐるみが座っている。商品が何も並んでない棚がある。手に持っていたペンとメモ帳をすぐに鞄に引っ込めました。せっかく飛行機に乗って来たのに、店番してもらうパートさんの人件費も無駄になったな、と思い始めたところ清水店長に声をかけられました。「どこから来たの?」

「伊丹で書店をしてまして、去年、大阪であった書店向けの研修会で清水さんが講師の時に参加していました…」

清水店長は小さい折り畳み椅子を出してきて「ここに座って」と言いました。

私はそれに腰をかけて、自分の店の状況を話しました。「以前は順調だったのですが、近くにショッピングモールができてから人が減って…」とか「市の再開発で向こうの通りに店がいっぱいできて人通りが変わってしまったんです…」「駅前なのに人がぜんぜん来なくなって…」口に出たのは泣き言でした。

そんなこと話すつもりで行ったわけではないけど、心の声が漏れたのです。その頃の私は、店が大変なのを環境のせいにしてました。まるで被害者のようになっていたのです。

そんな私に、清水店長はひとこと、

「やりがいがあっていいじゃん」

読書のすすめも、過去、周辺に書店がたくさん出店したことがあったそうです。その度に雑誌やコミックが売れなくなった。でも、そんなの売れなくても、人のためになる本を売ったらいいんだよとお話してくれました。

「大丈夫、君もできるよ。智慧を使えば、うちみたいに繁盛するよ。」

なにが大丈夫なのか、どんな智慧なのか、自分にできるのか、よくわからない。

でも、駅から近くなく、店も大きくなく、接客マニュアルも到底なさそうで、この陳列で繁盛されている。今まで本屋の常識内でやってきたけど、私のような個人店はその枠を超えるしかないのかもしれないと思えました。

その日をきっかけに清水店長と交流が始まりました。度々、電話をくれました。「今なにしてんの?」「儲かってる?」「○○って本知ってる?これおもしろいんだけど」と気にかけてくれました。

こんなエピソードがありました。清水店長の新刊「福の神がやってくる!大向上札」(現代書林)の発売が決まったときのことです。事前に聞いていたので出版社に注文しました。翌日、清水店長から電話がかかってきて、「べつに、オレの本だからいいんだけどさぁ、15冊って。こんぶちゃん、売る気があるんだったら志を見せなよ。まぁ、オレの本だから売れないかもしれないけどさ。そういう覚悟っていうか…」

何を意味するのかすぐにわかりました。清水店長の電話を切ったあと、すぐ出版社に電話して注文を15冊から100冊に変更してもらいました。

発売日、「福の神がやってくる!大向上札」が100冊入荷しました。嬉しいより、わくわくするより、こんなにもどうしよう…不安のほうが大きかったです。しかし、入荷したからにはなんとかしなければなりません。もう「どうやったら売れるのか?」と考えるのは間違いだとわかってました。私は「この札を使えば、どんないいことがあるのか?」を考えました。

結果は、100冊完売です。今まで売れなかったのは自分が「売れない」と思ってたから売れなかったのです。何が嬉しいって、大向上札を使っている人が毎日一枚引いてそれを教訓に行動しているのが嬉しかった。みんな真面目にやるんですもの。

2008/02/09 01:31

「志を持て!」の意味が少しわかったような気がしました。そのことを清水店長に報告すると、「だろ、だから言ったろ!そうやって売ればいいんだよ」と言ってくださいました。薦めたい本は何冊でも仕入れる、その頃から始まりました。

それ以降も、清水店長は度々電話をくれました。「合ってるかどうかは知んねえけど、オレは本屋の語源は寺か寺子屋だとおもってんだ。まぁ、言ってみればオレもこんぶちゃんも修行僧だな。たくさん本を読んで勉強して、いい本を教えてあげなきゃだめなんだよ。わかった?」

雨の日がつづき、お客様が少ない毎日、暗い空を眺めて憂鬱になってた。そんな時にかぎって電話が鳴ります。「こんぶちゃん何してんの!」「自分のこと(悩み)は棚に上げて、人を喜ばすことだけ考えりゃいいんだよ」「損得勘定は捨てろ」「プライドを持て」「5%の人になれ」「覚悟しろ」「もっと攻めなきゃ」「笑ってりゃいいんだよ」こうしてずっと気にかけて応援してくれました。

そのおかげで、私も志や使命感を持てるようになりました。読書を普及すること、人を喜ばせること、ちょっと損をすること、本屋が拠り所になること。

伊丹で清水店長の講演会をしたこともありました。店でみんなで酒を飲んだことも。

ときどき、「読書のすすめの清水店長からここのことを聞いて来ました」というお客様が現れます。

私の本棚には清水店長の本だけでなく、清水店長おすすめの本がたくさん並んでいます。すすめてくれなかったら買ってなかった本です。清水店長は本と言葉と志で、私に大きな影響を与えてくれました。

もう電話は鳴ることはない。

語りも説教も聞けない。

でもいなくなった気はしない。

これからも私の中にずっといるだろうけど、もう応援してもらうのは違う。

私は、清水店長の志を受け継ぎたい。

日本の未来のために読書を普及します、人を喜ばせます。   by こんぶ店長

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